バッテリーパックの電圧降下はなぜ起こる?負荷電流とVoltage Sagの関係
無負荷では正常な電圧を示しているのに、モーターの起動や高出力モードへの切り替えで電圧が急低下し、機器が停止することがあります。この現象は、バッテリーパックのVoltage Sag、つまり負荷時の電圧降下が原因かもしれません。
電圧降下は、単純な容量不足だけで起こるものではありません。負荷電流、セル内部抵抗、充電状態、温度、経年劣化、BMS、溶接部、配線、コネクタなどが組み合わさって発生します。本記事では、その仕組みと計算方法、診断手順、設計時の対策を解説します。
バッテリーパックに電流が流れると、セルと電流経路の抵抗によって内部で電圧が失われます。基本的には負荷電流が大きいほど電圧降下も大きくなります。負荷時の端子電圧が機器またはBMSの低電圧しきい値を下回ると、バッテリーにエネルギーが残っていてもシステムが停止する場合があります。
Voltage Sagとは何か
Voltage Sagとは、バッテリーに負荷を接続したとき、端子電圧が無負荷時より低くなる現象です。日本語では「電圧降下」「負荷時電圧低下」などと呼ばれます。
負荷を外した後に電圧が回復する場合、その差には内部抵抗と電気化学的な分極が関係しています。一方、放電が進んでSOCが低下すると、バッテリー自体の基準電圧も徐々に下がります。
負荷時端子電圧の簡易モデル
開回路電圧とは、電流がほとんど流れていない状態で測定した電圧です。総抵抗にはセル内部抵抗だけでなく、タブ、溶接部、バスバー、BMS、ヒューズ、電線、コネクタなどの抵抗も含まれます。
Voltage Sagはセル単体の問題とは限りません。完成したバッテリーパックでは、セルから機器までの電流経路全体を評価する必要があります。
負荷電流が大きいほど電圧が下がる理由
オームの法則による一次近似では、電圧降下は電流と抵抗の積として計算できます。
例えば、パック全体の有効抵抗が50ミリオーム、負荷電流が10Aの場合、一次近似による電圧降下は0.5Vです。同じ抵抗で負荷電流が20Aになると、電圧降下は1.0Vになります。
抵抗による発熱は、概ね電流の二乗に比例します。
電流が2倍になると、同じ抵抗での発熱は約4倍になります。そのため、高負荷用途ではVoltage Sagだけでなく、セル、BMS、溶接部、配線、コネクタの温度上昇も確認する必要があります。
セル内部抵抗と電圧降下の関係については、PKCELLの
セル内部抵抗、発熱、パック整合性の技術ガイド
も参考になります。
バッテリーパックの電圧降下を大きくする要因
| 要因 | Voltage Sagへの影響 | 確認項目 |
|---|---|---|
| 大きな負荷電流 | 抵抗が同じでも電流に比例して電圧降下が増える | 連続電流、ピーク電流、ピーク時間 |
| 高い内部抵抗 | 負荷時の電圧低下と発熱が大きくなる | DC抵抗、測定方法、SOC、温度 |
| 低温 | 電気化学反応が遅くなり、出力が低下しやすい | 最低使用温度での負荷試験 |
| 低SOC | カットオフ電圧までの余裕が小さくなる | 放電末期の起動負荷とピーク負荷 |
| セルの劣化 | 内部抵抗の増加によって新品時より電圧が下がりやすい | 寿命末期の出力要件 |
| BMSと接続部 | MOSFET、基板、溶接部、電線、端子で損失が発生する | 抵抗、電流定格、温度上昇 |
| セルのばらつき | 特定の直列グループが先に低電圧へ到達する | 各セルグループの負荷時電圧 |
低温による影響
低温ではセル内部の反応が遅くなり、利用可能な出力が低下します。室温では正常に動作するパックでも、冬季の屋外、冷蔵倉庫、寒冷地での始動時には、大きな電圧降下が発生する可能性があります。
低SOCによる影響
SOCが低くなると、バッテリー電圧と機器の最低動作電圧との差が小さくなります。この状態で大電流が流れると、短時間のVoltage SagだけでBMSや機器の低電圧保護が作動することがあります。
経年劣化による影響
セルは使用と保管によって変化し、一般的に内部抵抗が増加します。新品時には問題なく動作していた機器でも、使用期間が長くなると起動時の電圧降下や発熱が大きくなる場合があります。
BMS、配線、コネクタによる影響
細い電線、長い配線、抵抗の高いコネクタ、不十分な溶接、細いバスバー、BMS MOSFETなども電圧降下を増加させます。各部品の抵抗が小さく見えても、大電流時には無視できない損失になります。
4S2Pパックの電圧降下を計算する例
4S2Pパックに、同じ測定条件で内部抵抗が20ミリオームのセルを8本使用すると仮定します。
- 2本並列グループの理想的なセル抵抗:20ミリオーム ÷ 2 = 10ミリオーム
- 4グループ直列のセル合成抵抗:10ミリオーム x 4 = 40ミリオーム
- BMS、溶接部、配線、コネクタの合計抵抗:15ミリオームと仮定
- パック全体の簡易合成抵抗:40 + 15 = 55ミリオーム
このパックに15Aの負荷を接続した場合、一次近似による電圧降下は次のとおりです。
負荷直前の電圧が14.0Vなら、負荷投入直後の端子電圧は概算で13.175Vになります。ただし、実際の値にはSOC、温度、パルス時間、分極、セルばらつきなども影響します。
この数値は計算方法を説明するための例であり、特定製品の定格ではありません。
直列数と並列数は抵抗にどう影響するか
同一セルで構成した理想的なパックでは、セル部分の合成抵抗を次の式で概算できます。
直列数を増やすとパック電圧は高くなりますが、セル抵抗も直列に加算されます。並列数を増やすと電流を複数セルで分担できるため、セル部分の合成抵抗は低下します。
ただし、実際の電流分担は完全には均等になりません。セルの抵抗、SOC、温度、溶接品質、導体形状が異なると、一部のセルへ電流が偏る可能性があります。
高負荷用途に適したセルを探している場合は、
PKCELLの高レートバッテリー製品
を確認できます。直並列構成、BMS、コネクタまで含めた設計には、
カスタムバッテリーパックサービス
をご利用ください。
定電力負荷でVoltage Sagが悪化する理由
DC-DCコンバーター、インバーター、一部のモーター制御機器などは、入力電圧が変化しても必要な出力電力を維持しようとします。このような定電力負荷では、バッテリー電圧が下がると入力電流が増加します。
電圧が下がると電流が増え、電流が増えると内部抵抗による電圧降下も増えます。その結果、さらに入力電流が増えるという連鎖が起こることがあります。
- DC-DCコンバーターが低電圧保護で停止する
- BMSがセル低電圧または過電流を検出する
- モーターのトルクが不足する
- 制御基板や通信機器が再起動する
- 照明が暗くなる、または点滅する
- 利用可能な容量が残っている状態で運転が終了する
無負荷電圧が正常でも機器が停止する理由
テスターで無負荷電圧だけを測定しても、パックが必要な電流を供給できるかは判断できません。負荷を外すと電圧が回復するため、劣化したセル、高抵抗の接続部、能力不足のBMSが見逃される場合があります。
直列パックでは、パック全体の無負荷電圧が正常でも、抵抗の高いセルグループだけが負荷時に大きく低下することがあります。そのグループがBMSの低電圧しきい値へ到達すると、パック全体の出力が停止します。
負荷時に停止する18650パックの確認方法については、PKCELLの
18650バッテリーパックのトラブルシューティングガイド
もご覧ください。
Voltage Sagを診断する5つの手順
1. 実際の負荷電流を測定する
平均電流だけでなく、連続電流、起動電流、ピーク電流、ピーク継続時間、繰り返し間隔を記録します。短い突入電流には、十分なサンプリング速度を持つ測定器が必要です。
2. パック端子と機器入力端子を比較する
両方の位置で負荷時電圧を測定します。電圧差が大きい場合は、配線、ヒューズ、スイッチ、端子、コネクタなどに損失がある可能性があります。
3. 電流変化と電圧変化を同時に記録する
簡易的なDC抵抗は、規定した電流変化に対する電圧変化から推定できます。
測定結果は、パルス時間、SOC、温度、測定位置によって変わります。異なるセルやパックを比較するときは、同じ条件と測定方法を使用してください。
4. 低温と低SOCで再試験する
室温、満充電付近だけでなく、最低使用温度、放電末期、高温の密閉状態でも確認します。寿命末期の出力が重要な製品では、劣化後の抵抗増加も設計条件に含めます。
5. 各直列グループの負荷時電圧を確認する
適切な設備と安全手順を使用できる技術者は、各直列セルグループの負荷時電圧を測定します。1グループだけ低下が大きい場合、セルの劣化、容量差、抵抗差、溶接不良などが考えられます。
リチウムイオンバッテリーパックを不用意に分解したり、BMSをバイパスしたりしないでください。膨張、異臭、液漏れ、変色、損傷、異常発熱があるパックは使用を中止してください。内部測定や修理は、適切な設備を持つ技術者が実施する必要があります。
バッテリーパックの電圧降下を抑える方法
- 負荷に適したセルを選ぶ:容量だけでなく、DC抵抗、連続電流、ピーク条件、温度特性を比較します。
- 適切な並列数を設定する:セル1本あたりの電流負担を減らし、電圧降下と発熱を抑えます。
- 低抵抗のBMSを選ぶ:MOSFET損失、連続電流定格、過電流しきい値、温度上昇を確認します。
- 電流経路を短くする:適切な電線、バスバー、溶接条件、コネクタを選定します。
- 電流分担を均等化する:並列グループ間で配線長や接続抵抗が偏らないように設計します。
- 放熱経路を確保する:密閉ケース内の熱だまりを避け、必要に応じて熱対策を追加します。
- 低SOCで検証する:放電末期でも必要な端子電圧を維持できるか確認します。
- 量産仕様で試験する:セルだけでなく、BMS、ヒューズ、配線、コネクタを含む完成パックで評価します。
セル仕様書の内部抵抗や放電曲線を比較する際は、PKCELLの
OEM向けリチウムイオンセル仕様書の読み方
も参考にしてください。
メーカーへ伝えるべき仕様
Voltage Sagを抑えたバッテリーパックを開発するには、次の情報をメーカーへ共有すると選定がスムーズです。
- 製品の用途と動作モード
- 公称電圧、満充電電圧、最低動作電圧
- 平均電流と最大連続電流
- ピーク電流、継続時間、発生頻度
- モーター起動電流または拘束電流
- 定電力負荷の有無と変換効率
- 許容できる最大電圧降下
- 必要な運転時間と目標寿命
- 充電および放電温度範囲
- BMS、通信、NTCの要件
- 配線、ヒューズ、コネクタの仕様
- 寸法、重量、年間数量、必要認証
負荷時に安定したバッテリーパックを設計しませんか?
電圧範囲、連続電流、ピーク電流と継続時間、最低使用温度、許容電圧降下、必要容量、サイズをご共有ください。PKCELLがセル、直並列構成、BMS、配線、コネクタを含むカスタム仕様を検討します。
よくある質問
Voltage Sagとバッテリー切れは同じですか?
同じではありません。Voltage Sagは負荷によって端子電圧が一時的に低下する現象です。負荷を外すと電圧が回復することがあります。バッテリー切れは、放電によって利用可能なエネルギーが少なくなった状態です。
容量の大きいバッテリーなら電圧降下は小さくなりますか?
必ずしも小さくなるとは限りません。並列数を増やして電流を分担できれば改善する可能性がありますが、容量の大きさだけでは内部抵抗や高電流性能を判断できません。
BMSを大電流タイプに変更すれば改善しますか?
BMSが主な損失や遮断原因なら改善する可能性があります。しかし、セル、溶接部、電線、ヒューズ、コネクタが原因の場合、BMSだけを変更しても解決しません。
低温で電圧が急に下がるのは故障ですか?
必ずしも故障ではありません。低温ではセルの利用可能な出力が低下し、電圧降下が大きくなることがあります。ただし、特定のセルグループだけが異常に低下する場合は点検が必要です。
内部抵抗は一般的なテスターで測れますか?
一般的なテスターの抵抗レンジをバッテリーへ直接使用する方法は適切ではありません。通常は、規定した負荷変化に対する電圧変化からDC抵抗を推定するか、専用測定器を使用します。
まとめ
バッテリーパックの電圧降下は、負荷電流と電流経路全体の抵抗によって発生します。電流が大きいほどVoltage Sagと発熱は増加し、低温、低SOC、セル劣化、接続抵抗によってさらに悪化します。
バッテリーを選ぶ際は、無負荷電圧や容量だけで判断せず、負荷時端子電圧、内部抵抗、ピーク電流、連続電流、BMS、配線、コネクタ、温度を一体として評価することが重要です。
PKCELLのカスタムバッテリーパック
を確認するか、
技術チームへ負荷条件を送信
して、用途に適したパック構成をご相談ください。
Post time: Sep-08-2026

